活動報告:中高生によるサステナブル・ラベルシンポジウム~消費を変えて熱帯雨林の減少を食い止めよう!~

企画者の黒田(高2)です。2018年5月に開催した、シンポジウム「中高生によるサステナブル・ラベルシンポジウム~消費を変えて熱帯雨林の減少を食い止めよう!~」の報告をします。

【開催日時・場所】
2018年5月3日13:00~18:00
JICA地球ひろば国際会議場
参加人数:86名

【企画動機】

サバスタディーツアーを通して、現地で広がる生物多様性の素晴らしさを実感しました。一方でアブラヤシプランテーションの開発による熱帯雨林の減少により、生物多様性に危機が迫っていることを学びました。アブラヤシプランテーションは私たちがパーム油を利用するために開発されており、私たちの消費行動と間接的に関係があります。このような事実に対し「RSPO(注1)」や「FSC(注2)」といった認証制度が存在し、これらの認証がついた商品を選ぶことで熱帯雨林の持続性に貢献する事ができます。しかし国内におけるRSPOやFSCの認知度や普及率は他先進国と比べて低いのが現状です。ここで私たちは認証を普及させる必要性を感じ、本シンポジウムの企画に至りました。

(注1)RSPOに関してはこちらをご覧ください。
(注2)FSCに関してはこちらをご覧ください。

【内容】

*第1部 認証とは何か?*

①国際認証とサステナブル&エシカルラベルとは?

サステナブル・ラベルの概要や役割、国内・海外企業の取り組みの紹介に関してご講演いただきました。「認証は1つの選択肢であるだけで、全てを解決する魔法の杖ではない。たとえばRSPOだけで熱帯雨林の減少を止めることは難しい」というお話が印象に残っています。全ての商品にRSPOがついたとしても、それがゴールとはなり得ないという現実を学ぶことができました。企業は「RSPOで十分」と思うのではなく、「RSPOが第一歩」だと考える意識を持つことも大切なのかなと思いました。

②SDGsとサステナブル・ラベルの認知度

東京大学の学生におけるSDGsやサステナブル・ラベル(RSPO,FSCなど)に関する認知度調査の結果を報告していただきました。
SDGsの目標12(つくる責任・使う責任)に関心がある学生が多いが、ラベル付き商品を買っている人は少ないという結果から、「大学生(東大生)の持続可能性に対する意識は高いが、ラベルを知らないため買う人が少ない」という考察が興味深かったです。ラベルの普及が進んでいない現状に対してもどかしさを覚える結果となりました。

③サステナブル・ラベルの学校での扱い

サステナブル・ラベルの家庭科という教科における扱いや、生徒に行ったサステナブル・ラベルの認知度調査の結果を報告していただきました。
「ラベルの話は教科書に載っていないので授業で扱いづらい」という話が教員ならではで面白かったです。認知度調査ではRSPOの認知度が1%程度だったのですが、教科書に載れば中高生への普及が一気に進むのではないかと思いました。
そのためにもまずは教科書に載るほどRSPOを一般的な存在にしなければならないと思いました。

④RSPO認証を広めるには

RSPOやパーム油の普及活動を行っているpalmstreamの活動報告や、活動を通じて経験した普及の難しさを報告していただきました。
「RSPOというラベルを教えても、中々興味を持ってくれる方がいない」というお話が印象に残っています(私もよく経験するので…笑)。
ラベルを普及させるには「興味がない人」を無視するわけにはいかないので、そのような人にはどのようにアプローチすれば良いのか悩んでいるとのことでした。
この悩みは第1部のパネルディスカッションに繋がります。

⑤パネルディスカッション:サステナブル・ラベルを世間に広めるには?(登壇者:第一部の登壇者全員、司会:黒田)

― 議題:認証に興味が無い人へいかにアプローチするか?
樋山さんのお話に「RSPOというラベルを教えても、中々興味を持ってくれる方がいない現状がある」というのがありましたね。このような「興味を持ってくれない方」へいかにアプローチしようか、という話です。
まず話題にあがったのはpalmstreamの存在意義についてでした。先ほどあげたような現状があるならば、palmstreamが存在する意味はないのか?という問です。
結論からいえば、意味はありました。樋山さん、良かったですね(笑)
なぜか。これをまず紹介します。
皆さんに「お店に行ったらCMで見た商品があったから、つい買っちゃった」みたいな経験はありませんか?
では、これと似たような現象で「お店に行ったらどこかで聞いた事のある認証がついた商品があったから、つい買っちゃった」みたいなことは起こり得ないでしょうか。
例えば樋山さんがとあるイベントでRSPOについて語る。そこでRSPOという言葉を初めて聞いた「興味を持ってくれない方」がいる。別の日に、その人が店頭でRSPO認証付きの商品を見つける。「あ、買っちゃお」と思って購入する。
みたいなイメージです。RSPO付き商品なんてそうそう店頭にないよ!というツッコミはさておき、起こり得そうですよね?
以上の考えを、「あ!この問題、進○ゼミで見た!」というフレーズで有名な大手塾の名前をとって、「進○ゼミ理論」と名付けました。
palmstreamやSGBCのような学生団体や、皆さん1人1人がサステナブル・ラベルについて伝えていく事によってサステナブル・ラベルの世間への普及に貢献する事は、進○ゼミ理論の考えに基づけば十分可能です。その場では興味を持ってくれなくても、伝える意義がないか、ということにはならないのです。
【結論→その場で興味を持ってくれなくても、伝える意義はある!(∵進○ゼミ理論)】

*第2部 学生・企業・NGOの取り組み*

①中高生によるパーム油利用企業へのアンケート調査

SGBCが行っているパーム油利用企業へのアンケート調査の結果を報告しました。
このアンケートはパーム油を利用していると思われる企業79社を対象に行ったものでした。印象に残っている結果はRSPO加盟率です。今回RSPOに関する回答を頂けた31社の内「RSPOに加盟している」と答えたのは19%(6社)のみでした。
ただしこの結果は、アンケートにご協力いただけるような環境意識の高い企業の内でのものなので、実際はもっと低いんだろうなと思います。意識の高い企業内でも20%を切るとは…とショックでした。

②WWFの取り組み

WWFはRSPOとFSCの設立に携わっているのですが、今回は設立に至るまでの背景を解説していただきました。
RSPO・FSC設立の流れは、地球サミット(1992年)で環境に関する条約ができなかったこと失望したNGOが「消費者や企業が環境に配慮されたものを求める事で、現状を変えられる仕組みを作ろう」と考えたことによって認証が作られるというものでした。
印象的だったのは「認証は問題解決の1つの手段」というお話が出たことです。設立に携わった方も、認証だけで問題は解決されないと考えていることは僕にとって1つの発見でした。

③SARAYAの取り組み

SARAYAがRSPOを取得するに至った経緯や、認証取得以外に行っている活動を紹介していただきました。
SARAYAがいち早くパーム油の問題に取り組み始めたきっかけは、あるテレビ番組で「SARAYAの洗剤に含まれるパーム油が熱帯雨林を破壊している」といった内容が放送され、視聴者からクレームが殺到したことだそうです。SARAYAは2005年にRSPOに加盟。2010年に認証パーム油を使用した商品の販売を開始しました。
更に印象的だったのは、SARAYAが「RSPOは最低限のものであり、企業として+αで何が出来るか」を大切にしていることです。その+αとして認定NPO法人BCTJ(Borneo Conservation Trust Japan)への支援活動をしているとのこと。
「日本は遅れている」と言われる中で、SARAYAの取り組みはかなり先進的なものなのではないかと思いました。

④味の素の取り組み

RSPOに加盟した経緯や、味の素の課題を紹介していただきました。
味の素はパーム油を2020年までに全て認証付きにするという目標を立てていますが、課題が多いようです。
味の素が利用しているパーム油のうちおよそ6割はタイで利用され、国内で利用されているものは3割程度に留まります。
そのため日本で対策をとっても、適用されるものが3割程度しかないため、効果的なものを打ち出せない現状があるそうです。
さらに、世界のパーム油のうち認証付きのものは2割程度で、その2割を企業が奪い合っているそうです。
認証付きの油が少ないことから、RSPOにも問題があることを知ることができました。さらに、100%認証付きパーム油を使ってない企業にも苦労があり、無責任な批判は出来ないと感じました。

⑤地球人間環境フォーラムの取り組み

プランテーション開発が生物多様性に与える影響や、RSPOが抱えている課題を解説していただきました。
僕が印象に残っている点は主にRSPOの課題についてです。
RSPOには8つの原則がありますが、その中に「農園、工場の従業員及び、影響を受ける地域住民への責任ある配慮」というものがあります。
しかし、坂本さんによるとRSPOによる利益が現地の農園まで還元されていない現状があるようです。農園の方がせっかくRSPOに加盟しても、利益を実感できずに「入ってもいいことがない」と嘆いている現状もあると。
坂本さんの「RSPOでも現地の問題は解決しないが、サステナビリティを考える上では有効なツールとなる」という言葉が心に残っています。
シンポジウム全体を通して所々登場した「RSPOだけで問題は解決出来ない」という考えが、改めて腑に落ちました。それと同時に、僕が山口さんの講演中に思った「RSPOが第一歩」という考え方は案外良いのでは、と思いました笑

⑥パネルディスカッション:サステナブル・ラベルの普及のために消費者・企業・NGOは何ができるか? (登壇者:第二部の登壇者全員、山口氏、司会:黒田)

― 議題:なぜ、RSPOの普及は進んでいないのか? 消費者・企業・NGOの責任とは?
(テーマとそれている気がしなくもないですが、それはさておき。)
このパネルディスカッションでは、「サステナブル・ラベルの普及のために必要なものは何か?」という壮大なテーマの元、特に「RSPOの普及」という点に注目して議論しました。
まず、日本でRSPOの普及があまり進んでいない原因をFSCとの比較を通じて考察しました。
RSPOよりFSCの方が、普段の生活の中で目にすることが多いと感じます。それはなぜなのでしょうか?
その原因が2つ、ここでの議論で明らかになりました。1つ目は、そもそも設立からの歴史がFSCの方が長いということ。2つ目は、FSCがついている商品である紙や木材が、パーム油よりも身近な存在であることです。2つ目の理由についてですが、今は「パーム油」という油が私たちの生活と密接に関わっているということを知らない人が多くいます。RSPOを普及させるために、まずはパーム油と私たちの関わりを普及させる必要があるとわかりました。
次に、日本でRSPOの普及が進んでいない原因として、日本からのニーズがRSPOに届いていない(=RSPO取得油を利用する日本企業が少ない)ため、世界にある認証油のほとんどがヨーロッパに流れているということが挙げられました。RSPOとしても日本企業がターゲットになりにくいのです。
ここまでの話で「パーム油と私たちの関わりや、RSPOという認証の存在を普及させる」という、パーム油関係のイベントでありがちな目的の重要性はわかったと思います。
しかし、「そんなこと言っても、日本にRSPO付き商品がそもそも無いじゃないか!」というのが率直な感想だと思います。そのような社会になったのは誰の責任か? そんな犯人捜しをしても何も始まりません。
消費者・企業・NGOの3者が歩み寄っていくことが必要だと思います。
では、3者それぞれが果たすべき責任とは何なのでしょうか? これを考えていきたいと思います。
順番が前後してしまいますが、まずNGOから。
NGOは、RSPOの普及の基盤となるパーム油と熱帯雨林をとりまく現状を伝える責任があります。
さらに、不十分だといわれるRSPOや、まだまだ取り組みが遅れているといわれる日本企業への監視を行うのが責任であるという結論になりました。
次に企業はRSPOを取得し、持続可能な油の調達に努める。更に、坂本さんがおっしゃったようにRSPOにも課題があることから、「RSPOが第一歩」という考えの元で。SARAYAのような「+α」の活動を行うことが責任としてあるという結論になりました。
最後に消費者は、RSPO認証付きの商品は数が少ないため買うのは難しいが、味の素のような「努力をしている企業」の商品を買うことで、その企業を応援する(「消費は企業への投票」なんていう言葉もありますね)。さらに、企業がどのような活動・取り組みをしているのかをしっかりとチェックし、渡邊さんのように「企業のことをもっと知る努力」をする責任があるという結論になりました。

―「企業のことをもっと知る努力」、皆さんはできていますか?